全国の美術ジャーナリスト、ギャラリスト、研究者、陶芸家(金賞受賞者)を中心に構成された推薦委員70名より候補者を挙げていただきました。2月16日(日)に開催した7名で構成する選考委員会で予め上位者のなかで投票した結果をふまえ選出をしました。
2019(令和元)年度 日本陶磁協会賞 和田的[わだ・あきら]
受賞理由
彫刻的な手法から、白い磁器という素材 のなかで何ができるのかということを考えた上での挑戦的な形へと、近年目覚ましい変化が見られること。ユーモラスな作品も評価が高く、推薦委員の得票および、選考委員でも七名のうち五名が和田氏に投票し圧倒的でした。 昨年度でも一位でした。
経歴
- 1978年
- 千葉県生まれ
- 2001年
- 文化学院陶磁科卒業 上瀧勝治に師事
- 2005年
- 独立 日本工芸会正会員認定
- 2007年
- 文化庁新進芸術家海外研修員として渡仏(フランス/パリ)
- 2010年
- 現代工芸への視点「茶事をめぐって」 東京国立近代美術館工芸館
- 2011年
- パラミタ陶芸大賞展 大賞
- 2016年
- 第9回現代茶陶展 白器水指「表裏」 TOKI織部大賞
- 2017年
- 現代6作家による茶室でみる磁器の現在 根津美術館
第64回日本伝統工芸展 白器「ダイ/ 台」 東京都知事賞
第7回菊池ビエンナーレ「表裏」大賞 - 2019年
- 21st DOMANI・明日展 平成の終わりに 国立新美術館
2019(令和元)年度 日本陶磁協会賞金賞 前田昭博[まえた・あきひろ]
受賞理由
表現の限られる白磁に新しい表現を切り拓き続けていることに加え、日本工芸会をはじめ、広くやきもの界のために献身的な働きをされていることが高く評価されました。
経歴
- 1954年
- 鳥取県生まれ
- 1977年
- 大阪芸術大学工芸学科陶芸専攻卒業
- 1991年
- 第11回日本陶芸展「毎日新聞社賞」
- 1997年
- 第10回MOA岡田茂吉賞展「優秀賞」
- 2003年
- 20回記念田部美術館大賞「茶の湯の造形」展 大賞
第2回京畿道世界陶磁ビエンナーレ銅賞(韓国) - 2004年
- 2003年度 日本陶磁協会賞
- 2007年
- 紫綬褒章
- 2010年
- 鳥取県文化功労賞
- 2013年
- 重要無形文化財「白磁」保持者認定
- 現在(2020)
- 日本工芸会副理事長、日本工芸会陶芸部会長、大阪芸術大学客員教授
2019年度 日本陶磁協会賞・金賞 受賞記念
和田的・前田昭博展
会期:2020年11月30日(月)~12月5日(土)/10時~17時
会場:壺中居 東京都中央区日本橋3-8-5
2019年度 日本陶磁協会賞・金賞受賞者選考経緯
2019年度「日本陶磁協会賞・金賞」の選考委員会を2月16日(日)午後2時より、銀座・和光本館6階会議室にて開催しました。選考委員の出席者は、赤沼多佳、石﨑泰之、伊藤嘉章、唐澤昌宏、黒田耕治、中ノ堂一信、森孝一の七名でした。
まず美術館・博物館の学芸員、美術ジャーナリスト、ギャラリー関係者、陶芸家(金賞受賞作家)で構成された70名の推薦委員に候補者を協会賞・金賞それぞれ3名まで選定していただき、協会賞93名、金賞59名の推薦をいただきました。
日本陶磁協会賞
協会賞は、推薦委員の方々による選定の結果、候補は以下のとおりになりました(推薦者の多い順に掲載)。
10名—和田的
6名—稲崎栄利子(+金賞推薦者1名) 川端健太郎
5名—近藤高弘(+金賞推薦者1名) 桑田卓郎
4名—黒田泰蔵(+金賞推薦者3名) 新里明士 見附正康
3名—松本ヒデオ(+金賞推薦者1名) 石橋裕史 伊勢﨑晃一朗 加藤亮太郎 高橋奈己 長江重和
2名—井上雅之(+金賞推薦者4名) 梶原靖元(+金賞推薦者1名) 松田百合子(+金賞推薦者1名) 安藤雅信 大石早矢香 大塚茂吉 奥村博美 加藤清和 柴田眞里子 中村康平 中村清吾 西端正 藤笠砂都子 望月集 森山寛二郎 山田和
1名—島村光(+金賞推薦者2名) 西村陽平(+金賞推薦者2名) 安倍安人(+金賞推薦者1名) 板橋廣美(+金賞推薦者1名) 植松永次(+金賞推薦者1名) 兼田昌尚(+金賞推薦者1名) 星野暁(+金賞推薦者1名) 秋永邦洋 猪倉高志 市川透 伊藤剛俊 伊藤みちよ 井戸川豊 今田拓志 岩田圭介 植葉香澄 大樋年雄 加藤智也 金重愫 亀井洋一郎 川崎毅 日下翅央 久保田厚子 黒川徹 五味謙二 酒井博司 清水志郎 須浜智子 瀬戸毅己 田淵太郎 辻村唯 津守愛香 徳丸鏡子 戸田浩二 富田美樹子 長江惣吉 中里太郎右衛門 中田一於 長谷川直人 服部真紀子
浜野まゆみ 林香君 福間琇士 古谷宣幸 細野仁美 堀野利久 松田共司 松田米司 松林豊斎 丸田宗彦 南野馨 牟田陽日 森野彰人 安永正臣 山口美智江 山田晶 横山拓也 吉賀將夫 吉田幸央 吉田里香 吉野桃李 若尾経 若杉聖子
得票の多かった候補者の推薦理由は、以下の通りです。
○和田的
「白磁の彫塑的美しさの極致にある。始点の成形にロクロを用いるところに彼独自の考えとメソッドを感じさせる。その出来栄え、パーフェクションには、どこか波山的世界に通じるものを思わせる」
「ろくろ成形後に削り出したシャープな線と曲線が美しく、作品を通して人との関係性を重視している」「地道に削り出す彫刻のような作品は自らの作品に対する彼の強い思いや新しい磁器の表現、可能性を感じる」「白磁の新しい世界を拓いている」
○稲崎栄利子
「超絶技巧や超微細などの言葉では説明できない未知の世界を捕らえようとしていることが伝わってくる」「誰にも真似のできない超絶技巧的技術を使って、今まで見たことのない陶芸の立体作品を制作し、その作品が評価されてきている」
○川端健太郎
「内面から湧き上がる感情や気配を陶芸で表現する稀有な存在。誰もが認める唯一無二の表現者として陶芸界は勿論、現代美術方面からも注目を集めており、今後の更なる発展を期待したい」
「独特の感性で創造された造形は強烈な個性を放ち続けている。ユニークなフォルムに注目が集まるが、釉薬の成分(ガラス質、銅、鉄)などを、個体として使い独自の意匠とする技法なども評価できる」
○桑田卓郎
「日本特有の美意識や文化、工芸の技術や素材に基づく造形をベースとしながら、普遍的な現代性を獲得する他に類のない作品を制作している」
○近藤高弘
「作為と無作為、必然と偶然の狭間で自分がコントロール出来ない偶然の美を楽しみながら創作し、用途を越えたウツワの本質を追究し、独自のものへ挑戦し続けている。「研ぎすまされ」「凛」としたもので感性と知性を併せ持った作風に魅了される」
○黒田泰蔵
「孤高の独創的白磁作家」
○新里明士
「蛍手の技法を進化させた作品は海外でも高く評価され、最近では穴をあける精度が高まり、光の文様と形の調和が素晴らしく、透明感のある作品はより洗練され美しくなっている」
○見附正康
「伝統的な技法を用い緻密な線で描く作品は、彼独特の紋線の組合せにセンスを感じます。古典的な九谷赤絵を新しいデザイン的な作品へ一変させた功績は非常に大きい」
以上の結果とともに、上位8名、和田的、稲崎栄利子、川端健太郎、近藤高弘、桑田卓郎、黒田泰蔵、新里明士、見附正康の陶歴、委員による推薦理由および作品の写真など資料を選考委員の方々に送り、候補者を1位(3点)、2位(2点)、3位(1点)で選定していただきました。
上位者による選考委員の投票は、以下の結果となりました。
15点—和田的
5点—黒田泰蔵
4点—見附正康
3点—桑田卓郎
2点—伊勢﨑晃一朗 稲崎栄利子 井上雅之 大塚茂吉
望月集
1点—金重愫 近藤高弘 高橋奈己 新里明士
1位に和田的氏を選んだ選考委員は5名、黒田泰蔵氏、見附正康氏は1名でした。協議の結果、1位の和田的氏を今年度の協会賞と決定しました。
受賞理由は、彫刻的な手法から、白い磁器という素材のなかで何ができるのかということを考えた上での挑戦的な形へと、近年目覚ましい変化が見られることです。作品推薦委員の得票および、選考委員でも7名のうち5名が和田氏に投票し圧倒的であること。昨年度でも1位でした。
日本陶磁協会賞金賞
推薦委員の方々による選定の結果、候補者は以下のとおりになりました(推薦者の多い順に掲載)。
11名—前田昭博
7名—中島晴美 林康夫
6名—三輪休雪
4名—井上雅之(+協会賞推薦者2名) 市野雅彦 金重晃介 中里隆 三原研 宮永東山
3名—黒田泰蔵(+協会賞推薦者4名) 中村錦平 前田正博 三島喜美代
2名—島村光(+協会賞推薦者1名) 西村陽平(+協会賞推薦者1名) 井上泰秋 川崎毅 重松あゆみ 神農巌 田嶋悦子 辻村史朗
1名—稲崎栄利子(+協会賞推薦者6名) 近藤高弘(+協会賞推薦者5名) 松本ヒデオ(+協会賞推薦者3名) 梶原靖元(+協会賞推薦者2名) 松田百合子(+協会賞推薦者2名) 安倍安人(+協会賞推薦者1名) 板橋廣美(+協会賞推薦者1名) 植松永次(+協会賞推薦者1名) 兼田昌尚(+協会賞推薦者1名) 星野暁(+協会賞推薦者1名) 石原祥嗣 伊藤公象 伊藤赤水 今井政之 桶谷寧 小野哲平 川上力三 清水六兵衞 高鶴元 神山易久 笹山忠保 佐藤敏 清水真由美 杉浦康益 鈴木三成 鈴木徹 高内秀剛 滝口和男 田中佐次郎 玉置保夫 原憲司 福島善三 松澤恵美子 水野半次郎 皆川典子 森岡成好 山内紅子
得票の多かった候補者の推薦理由は、以下の通りです。
○前田昭博
「「前田白瓷」は唯一無二の存在であり、独自の白瓷を切り開いた功績は大きい」
「撫でにより成形した胎土に、半透明の白釉を掛けて陰影をつけ、雪国に暮らす作家ならではの素直で温かい作風は誰からも愛されている」「柔らかな曲面で形作り、白磁の硬いイメージを一新させた」「近年の磁器表現における先駆的役割を果たす存在。観るものに静かに問いかけるような温かみと厳しさを併せ持つ現代の白磁ともいうべき作品。工芸会での活動や後進の指導など貢献度も高い」「白瓷に新しい表現をもたらした」
○中島晴美
「磁土を使って手びねりの手法で作品を立ち上げるという、今までだれもやったことのない方法で作品を制作し、国内外で評価を受けていることと若手の陶芸家育成の点でも評価できる」「自己のエネルギーと、その行き先の不安定さを感じさせる作品を一貫して制作し続けている姿勢は見事だと思う。又、指導者として、才能ある若手作家を多く育てている事も、将来の陶芸界に大きく貢献していると感じる」
○林康夫
「敗戦直後の苦難の中、いちはやく陶芸の革新を目指して創作活動を開始。その精神は現在まで貫かれ、独特の造形作品を国内外で多数発表。後進の育成にも尽力」「戦後の前衛陶芸を牽引する作家で、91歳になる現在まで制作を続ける唯一の作家」
○三輪休雪
「一昨年あたりから、彫刻的で動きのある山肌を意識した茶碗に取り組み、刀で削り込んだ造形と三輪家の白釉との融合した見事な作品を発表している」
○市野雅彦
「茶陶から斬新な花器まで丹波の土味で見せる感性」
○井上雅之
「30年以上にわたり、全くブレない制作姿勢。土を素材とすることへの意識、そして圧倒的なスケール感」
○金重晃介
「造形的な作品と茶陶を中心とするうつわの制作を現在もなお継続中で、備前を代表する作家のひとりである。シャープで端正だが人柄が伺える温かみがある」
○中里隆
「世界各地で精力的に作陶しながら新しい唐津の可能性を追求している。何物にも囚われないおおらかな作風と用の美を邁進する姿勢と作品は陶芸本来の魅力を放っている」
○三原研
「島根県の出雲で焼締め陶をひたすら作り、一見して三原作品と分かる、今や世界的に人気を博している造形作家」
○宮永東山
「幾何学的な抽象形態の作品は、厚紙を原型に用いた特殊な手法で成形された理知的なフォルムである。シャープな斜線によって構成される青白磁の作品、そして吹墨による染め付け等の造形作品は、伝統的な陶磁器の技法とが融合した美しい造形美である」
以上の結果とともに、上位八名、前田昭博、中島晴美、林康夫、三輪休雪、井上雅之、市野雅彦、金重晃介、中里隆、三原研、宮永東山、黒田泰蔵の陶歴、委員による推薦理由および作品の写真など資料を選考委員の方々に送り、候補者を1位(3点)、2位(2点)、3位(1点)で選定していただきました。
上位者による選考委員の投票は、以下の結果となりました。
12点—前田昭博
6点—林康夫
4点—中島晴美 黒田泰蔵 三原研
3点—宮永東山 三輪休雪
2点—島村光 中里隆
1点—市野雅彦 中村錦平
1位に前田昭博氏を選んだ選考委員は3名、林康夫氏は2名、黒田泰蔵氏、三原研氏は各1名でした。
協議では、まず金賞が過去に陶磁協会賞を受賞した方だけに限定するのではなく、作品づくり及び長年のやきもの界に功績を残した方を対象とすること、また、昨年に申し合わせた国の重要無形文化財保持者(人間国宝)や芸術院会員も対象にすることを改めて確認をいたしました。
前田昭博氏が圧倒的な得票を得たことから、金賞に決定いたしました。表現の限られる白磁に新しい表現を切り拓き続けていることに加え、日本工芸会をはじめ、広くやきもの界のために献身的な働きをされていることが高く評価されました。
なお次点となった林康夫氏は、過去に陶磁協会賞の受賞歴はありませんが、昨年に続き多くの票を獲得しました。90歳を越えたいまでも制作に励んでいることも改めて評価されました。
以上が、2019年度日本陶磁協会賞と金賞の選考結果報告です。次に、今回の候補者の推薦の労をいただきました推薦委員は以下のみなさまです。この場をお借りしてお礼を申し上げます。
五十音順に、
青山和平、秋元雄史、秋山陽、荒川正明、市川文江、伊藤慶二、井上隆生、岩井美恵子、上西節雄、内田篤呉、梅田稔、榎本徹、大塚和美、小野公久、隠﨑隆一、加藤清之、金重有邦、川上智子、川瀬忍、栗本洋、栗原浩之、黒田和哉、黒田草臣、纐纈幾世、小西哲哉、小吹隆文、坂本直樹、佐橋浩昭、佐藤京、島崎慶子、嶋田修、清水穣、下村朝香、正村美里、杉山道彦、鈴木藏、鈴田由紀夫、谷真琴、坪井明日香、戸田博、外舘和子、中林幸雄、野崎潤、橋本龍史、花里麻理、林佳名、林大介、福田朋秋、広瀬一郎、深井桂子、藤間寛、前﨑信也、鈎真一、松本健一、松本武明、マルテル坂本牧子、丸山博将、三浦努、三輪龍氣生、目黒伸良、森野泰明、八木光惠、矢崎孝子、安田尚史、山本忠臣、横掘聡、吉澤敬子、米原有二、ロバート・イエリン